プロフィール
名前 | 垣下 至徳 Kakishita Yukinori |
入学時年齢 | 29歳 |
学歴 | 早稲田大学 教育学部 (2012年3月卒業) |
職歴 | (現職)Deloitte Consulting(勤務地:香港) (MBA 前)PwC Consulting (勤務地:日本) <MBA前:勤務年数約5年> |
留学方法 | 私費 |
海外経験 | (MBA 前) 大学時代、イギリスに1年間の留学経験あり |
TOEFL | Total 101 (L24/ R27/ S23/ W27) |
GMAT | Total 690 (Q48/ V37/ AWA5.0) |
アジアに拠点を移すことを見据えた、アジアMBA(選んだ理由)
「2030年までに、GDP、人口、軍事費、技術投資額の観点で、アジアは北米と欧州の合計を上回る」[1]と言われています。これだけでもこれからの数十年はアジアが世界をリードする最もホットな地域であることが推測できます。しかし、私がアジアを留学先に選んだのは、もちろんそういった将来的なビジネスチャンスの拡大という理由もありますが、それ以上に「アジアが性に合っていた」ことが大きな理由でした。学部時代にイギリスへ1年間留学し、更にバックパッカーとしてアジア、ヨーロッパ、北米、アフリカと約30ヶ国を旅してきましたが、様々な地域を経験した後に、最終的に私が戻ってきたのはアジアでした。それは、アジアには独特の熱気や喧噪、フレンドリーで明るい人々、そして豊かな食文化といった数字では表れない魅力があり、自分が最も居心地が良いと感じた土地がアジアだったからです。そして、この先数十年はアジアに生活と仕事の拠点を移したいと思ったことが、MBAの留学先としてアジアを選択した最大の理由です。
とはいえ、アジアと一口に言ってもその中にも様々な選択肢がありますが、当初はどちらかというと東南アジアに強く惹かれていたこともあり、シンガポール(シンガポール国立大学, NUS/南洋理工大学, NTU)を第一候補とし、第二候補として香港(香港科技大学, HKUST/香港大学, HKU)を挙げていました。しかし、実際にビジットを行い、在校生や大学スタッフと直接会い情報収集を重ねたところ、シンガポールは近年外国人に対して就労ビザの発行条件を厳格化してきており、卒業後に現地で就職することが難しいという話を伺いました。一方で香港であれば、現地での就職は比較的難しくないという情報を得たことから、第一候補を香港に変更しました。ちなみに、入学後に知ったのですが、香港ではIANGという現地の大学を卒業した外国人が取得できるビザがあり(2018年現在)、このビザであれば企業のスポンサーなしで就労権が得られるため、外国人が香港で就職する際の強力なアドバンテージとなっています。
なおHKUSTとHKUについては、両校から合格をいただき、最後まで悩んだのですが、HKUSTの方がクラスサイズが大きいため、より広い人脈が築けることと、HKUSTがコンサルティングに特化したカリキュラムも有していたことから、最終的にHKUSTを進学先に決定しました。
[1] National Intelligence Council. (2012). Global Trends 2030: Alternative Worlds
全体スケジュール
HKUSTのプログラムは12ヶ月または16ヶ月と期間を選ぶことができます。多くの学生は最後のタームに海外の提携校に交換留学に行くため16ヶ月を選択しますが、私の場合は内定先から早く働き始めるようにプレッシャーをかけられたため、やむなく12ヶ月を選択しました。なお、12ヶ月の場合は2年目の夏休みの間に選択授業を受講するため、12ヶ月でも16ヶ月でも取得する単位数は変わりません。
<取得コース数>
各タームで取得したコース数
<忙しさ度合>
各ターム毎費やした時間を%で表示
印象に残っている授業
Venture Capital &Private Equity
Stanford大学でMBAとJD(法学博士)を取得し、更に会計士資格を持ち、中国やアジア各国で数々のディールに関わってきた、百戦錬磨の投資家であるLarry Franklin教授が実際のディールの流れに沿って投資実務を解説してくれます。課題の量がかなり多く、最もタフな授業の一つでしたが、教授曰く「このコースをまじめに履修すれば、Venture Capitalで一年間の業務経験を積むのと同程度の知識を身に着けることができる」くらい、実用的な授業でした。また、授業で扱うケースは中国やアジア各国において教授が過去に実際に関わったディールに基づいており、中国やアジア特有の投資リスクについても学ぶことができます。
South East Asia Economics
東南アジアの経済やビジネスについて、教授やゲストスピーカーから学ぶ授業です。教授は東南アジアで戦略コンサルタントとして勤務した経験があり、また、ゲストスピーカーは東南アジアのビジネスの最前線で活躍している方々であるため、具体的かつリアルなビジネスの現場の声を聞くことができます。私が受講した年は、Harvard大学でMBAを取得し、シンガポールで起業した若手起業家がゲストスピーカーとして講演をしてくださり、ビジネスに限らず、その方のパッションや人生観などに触れることができた学びの多い授業でした。
ケースコンペティション参加に対する手厚いサポート
ケースコンペティションは与えられたビジネスケースをもとに、対象企業の経営課題に対して解決策の提言を行い、その優劣を競うチーム対抗型の大会です。HKUSTでは学生のケースコンペティションへの参加を奨励しており、学内の選考で選ばれたチームへは海外で開催されるコンペティションへの参加費用として、渡航費や現地宿泊費の一部補助があります。
更に、ケースコンペティション対策として、EPS (Enhancing Professional Skills)という合宿型の授業があり、ビジネスで必須な問題解決スキルやプレゼンテーションスキルを、文字通り朝から晩まで特訓することができます。ケースコンペティションは、それまでに身に着けた知識やスキルを実戦で使うことができる良い機会であり、また、コンペティション中にチームメートと密な時間を過ごすことで、深い人間関係を築くことができるのも魅力の一つです。
アジア全体をカバーするダイバーシティ
HKUSTは文字通りアジアをカバーする高いダイバーシティを誇ります。私の学年では、約120名のクラスメイトの国籍の割合は、おおよそ中国が3割、インドが2割で、更に東南アジアの学生も1割程度おり、残りが日本や韓国、欧米といった具合でした。しっかり中国とインドというアジアの大国をカバーしつつ、東南アジアや欧米にも幅広いネットワークを築くことができたことは一生の財産となると考えています。世界と中国をつなぐゲートウェイでありながら、東南アジアにも十分近い地理的条件を備えた香港のMBAの強いアドバンテージではないでしょうか。
充実した中国語学習環境
HKUSTでは、メインのプログラム開始前に、北京への1ヶ月の語学研修がオプションとして用意されています。
このオプションプログラムへは、私の学年では10名程度が参加しましたが、良かった点は以下2点が挙げられます。
- メインプログラム開始前に小規模コミュニティで密な人間関係を築くことができる
- 中国語学習の土台となる基礎を身に着けることができる
1,については、メインプログラムが始まると約120名のクラスメイトが、60名規模の2つのCohortに分けられ、基本は振り分けられたCohort内で初期の人間関係を構築していきますが、私の場合は事前に北京で仲良くなったクラスメイトがもう一方のCohortにいたため、そこから更に人間関係を広げることができました。北京で一緒になったインド人の同級生は、その後もCohortが被ることはありませんでしたが、一緒に旅行に行くなど深い関係を築くことができました。
2.については、私はそれまで中国語を学習したことがなかったため、1ヶ月の中国語研修のおかげで、その後の中国語学習の土台となる基礎力を身に着けることができました。メインプログラム開始後も、選択科目で中国語の授業があり、基礎レベルからビジネスレベルまで幅広く中国語の学習機会が提供されていますので、MBAを通じて中国語スキルを高めることができます。
香港の公用語は広東語と英語ですが、ローカルのお店では英語よりも中国語(普通語)の方が通じやすいことも近年では少なくありません。また中国のシリコンバレーとして有名な深圳へは電車で1時間程度で容易に行けるため、中国語を話す機会が豊富にあり、学習を継続しやすい環境にあります。
MBA期間中、香港を中心にアジア圏で就職活動を実施
MBA留学前からの目標として、卒業後は香港または東南アジアで働くことを考えていました。HKUSTのMBAプログラムの期間は12ヶ月または16ヶ月と、一般的な米国の24ヶ月と比べて短いため、8月のプログラム開始直後からキャリアについて考える授業やイベントが多くありました。
私の場合は、第一志望としてコンサルティング業界を考えており、コンサルティング企業の多くは選考にケース面接が含まれているため、同級生と英語のケース面接の練習を週に何度か実施しました。現在の勤務先との接点は、10月に学校のキャリアセンターが主催したMBA学生向けの説明が最初で、その後書類選考を経て11月に面接(通常面接1回、ケース面接2回、役員面接1回)を行い、翌年の1月に内定をいただきました。比較的早い段階で内定を頂いたため、それ以外の企業は受けていませんが、その他の同級生は3月頃から就職活動を本格化させ、6月頃に夏のインターンシップの内定を得て、インターンシップ後にフルタイムのオファーをもらうケースが一般的な様です。
なお、シンガポールや上海へのキャリアツアーも学校が主催しており、現地の企業訪問やネットワーク構築を行う機会もあります。実際に同級生の中には、現地出身ではなく中国やシンガポールなど香港以外のアジアの国で就職した人もいます。
アジアMBAのメリット&デメリット
当初のMBAの目的として、海外就職、広範なビジネススキルの獲得、アジアのネットワーク構築を掲げておりましたが、どれも満足のいく水準で達成できていると感じています。また、目的としては掲げていなかったものの、実際に得られたMBAのメリットとして、キャリアの方向性の明確化という点も挙げられます。仕事漬けの生活から一定期間離れ、授業を通じて今まで馴染みのなかった業界や分野の知識を得たり、全く違う環境で働いてきた同級生の話を聞くことは、自身のキャリアをゆっくり再考する上で非常に有益なインプットとなりました。当初は卒業後のキャリアは不明確でしたが、MBAを通じて自分なりにこの先の人生でやりたいことを明確化した上で、コンサルティング業界に戻ることができたと考えています。
デメリットとしては、アジアでは米国等と比べてまだまだMBAが評価されておらず、MBA後の職階や給与が前職よりも大幅に上がるケースは多くないため、私の場合は転職後も前職と同じ職階でのスタートとなったことです。日本で就職活動をしていればまた違った結果になっていたかも知れませんが、私の場合はあくまで海外就職にこだわっていたため、職階のアップを犠牲にした部分もあります。前職の同期は既に昇進している人もおり、短期的に見ればMBA留学によって一時的にビジネスの前線から離れたことで、キャリア的に後れを取ってしまったことは否めません。
しかし、前述の通りMBAで得たものはこのデメリットよりも大きいと確信しており、希望通り日系企業ではなく現地の外資系企業に就職できたため、MBA留学を選択したことは後悔していません。その意味でも、キャリアの空白期間を可能な限り短くできる12ヶ月のプログラムで良かったと考えています。
未来のアジアMBA生への応援メッセージ
MBAは非常に高価な買い物です。特にフルタイムの場合は、社費留学でもない限り、その間の収入がなくなるため機会費用も発生してきます。では、その高額な費用に見合うだけの価値がMBAにあるか、と問われると、結局それはその人の価値観、そしてMBA後の行動次第なのではないでしょうか。
私の場合は「一度しかない人生なら、やりたいことをやっておきたい」というのが、最終的にMBA留学に踏み切った動機でしたが、MBAを通じて得た数々のスキル、経験、人脈はMBAを選択しなければ絶対に得られなかったであろうものばかりで、その判断は間違ってなかったと感じています。また、MBAの価値をいかに最大化できるかも自分次第であり、MBAで得たスキル、経験、人脈を活かすも殺すも今後の自分の行動に掛かっているのではないかと考えています。
今MBAを検討されている方は、ここに載っている様々な体験記を読んで、共感するところがあるかどうか、自分が得たいものが得られるかどうかを見極めた上で判断されると良いかと思います。私の拙体験がその一助となれば幸甚です。
<参考>留学費用
※在学当時の留学費用概算、為替は2019年1月現在のものを使用