【MBA在校生レポート】荒波を越えて 今だからこそ伝えたい香港MBAのリアル:コロナウイルス編

 

中国武漢での肺炎流行からはじまり、目下世界各地で感染が拡大している新型コロナウイルス。封じ込め、感染拡大防止のために各国が様々な政策を行い、多くの学生が集う、大学にも大きな影響を及ぼしています。このような状況下で、MBAの授業はどのように行われ、学生はどのように考え過ごしているのでしょうか?今回は、香港科技大学(HKUST)の在校生である佐藤拓也さん(Class of 2021/Intake2019)に、今の様子を詳しくレポートして頂きます。

 

プロフィール

 

HKUST_佐藤拓也

佐藤 拓也 (さとうたくや)

香港科技大学(HKUST) MBA Intake2019。慶應義塾大学環境情報学部、2012年3月卒業。新卒で野村證券に入社、営業店にて6年間新規開拓に従事。HKUST MBA Japan Club President。

入学時年齢 : 31歳
留学方法 : 退職私費
海外経験 : 無し
IELTS: Overall7.0 (L6.5/ R7.0/ S7.5/ W6.5)
GRE : Total 316 (Q166/ V150) (GMAT換算640)

 

まだ答えはないけれど

 

一難去ってまた一難となりますが、今回はコロナウイルスについてお伝えします。

 

民主化デモについては一旦の収束を見て、香港での生活の上でデモのことを気にすることはなくなった為、振り返りの記事を書くことが出来ました。一方コロナウイルスの流行については現在進行中の事案です。結果としてHKUSTの対応が過剰だったのか、不足だったのか、また今後どのように収束するのか等、今はまだ分かりません。これから下記致します私を含めたクラスメート達の直面している困難に対する乗り越え方についても、今の僕はまだ答えを持っていません。

 

思い返せば、デモの時だってそうでした。先日掲載させて頂きました香港民主化デモ編の記事も、今となれば思い出として振り返ることが出来ますが、当時は本当に不安でいっぱいでした。ただ、デモがあっても、ウイルスが流行しても、自分に出来ることは、その困難と向き合い、コミュニティに対するオーナーシップを持ち、自分が出来るベストの行動を起こすことだけだと思っています。一つ一つの思考と行動の積み重ねがいつかきっと経営者として新興国マーケットで戦う上での糧になるはずだと今は信じています。

 

いずれ決着を見た際には、更新ないしは続編を書こうと思います。ひとまずは、香港MBA在校生として、アジアMBAに関心をお寄せ頂いている皆さんに2月末日現在までの出来事をお伝え致します。

 

 

利益率80%見込み!マスクビジネス

 

1月、香港でも武漢でのウイルスについて話題になり始めますが、まだそれほど深刻とされていませんでした。

 

HKUST_寮内で映画鑑賞を通して感染症について学習

寮内で映画鑑賞を通して感染症について学習

 

一方で、SARSの経験が有り予防意識の高い香港の街中では、マスクが徐々に入手しづらくなり、個人商店では5枚で100HKD(1400円)というような価格になっていました。ビジネススクールにいるからには、最初に考えることは勿論「日本から輸入したら売れるんじゃないか?」です。勉強したてのストラテジックシンキングを活用して、中国のマスク供給がいつ追いつくのか、設定できる最高値、販路についてクラスメートと討論しました。所がそんなことをしつつ、一週間も経つ頃にはネット通販でも入手しづらくなり、また輸出規制で荷物が届きにくくなりました。

 

結論、この手のビジネスはスピードが命でした。アジアの動きは本当に速く、ダイナミックです。マスクの個人輸入レベル、大きなリスクでは無かったはずで、思い切った初動をとるべきでした。ふと頭の中に浮かんだのは前職野村證券時代の上司です。

「考えてる暇があったら一件でも多く電話かけんかい!」

MBAに来て自分は賢くなった気でいたのかもしれない。でも、ビジネスをする上で本当に大切なことは行動することだ。頭でっかちになりかけていた自分への戒めになりました。

 

HKUST_初心忘れるべからず

初心忘れるべからず

 

 

リモートワークは有効か

 

中国での感染者は増え続け、1月30日からの名物プログラムの一つ、EPS(Enhancing Professional Skills)がオンライン振替にて幕を開けました。旧正月中海外にいた学生の一部は香港に戻らずに、海外から受講することになりました。また直近中国本土に立ち寄った学生は強制的に寮外の別の宿泊棟に強制隔離という厳重な感染防止策も実行されました。

 

HKUST_カンファレンスロッジ

中国本土帰りの学生が隔離された学内カンファレンスロッジ
普段はゲストスピーカー用なので実はすごく豪華

 

さて、このEPSというプログラムは、4~5人組のチームで参加します。約二週間、集中講義及び連日連夜のグループワークとプレゼンテーションを経て最終発表を行うというものです。学内外からの審査員による審査の上、この最終発表での上位9チームは学校からのスポンサーシップ付きでHKUST代表として海外で開催されるケースコンペティションに参加出来ることになります。スポンサーシップは航空券と現地宿泊等がカバーされ、一人当たり上限3,000USDですからどのチームも真剣です。

 

私のチームの場合、本来であれば教室内で顔を合わせて行うはずの講義パートがオンライン振替になったことがトラブルを生みました。4人チームの内、一人のロシア人チームメートは学外に住んでおり、彼はグループワークも全て自宅からオンラインで行いたいと主張。それに対して中国人のチームメイトは学内で対面ミーティングを持つべきだと主張し激論。そうこうしているうちに当のその中国人が、このウィルス騒動のさなかつい先日深センに遊びに行っていたことが発覚。予防策の為強制隔離され、対面ミーティングに参加出来ないことが決まり一同ズッコケるという混乱ぶりでした。最終的にはアメリカ人のチームメートも家族の要請でアメリカに一時帰国し、グループワークは完全にビデオチャットのみで行うことになりました。

 

未だにディスカッションについては対面の方がスムーズだったのではないかと思うことがあります。反面、台湾やインド等から完全にリモートでグループワークをしながら質の高いプレゼンテーションを仕上げたチームもありました。ポイントはチームの意識の統一なんじゃないかなと感じています。序盤、たかが30分程度の登校を拒絶するチームメートに対して、チームへの献身の意識が足りないと感じた面が自分にも、中国人チームメートにもあったのかもしれません。私自身、この頃はオンラインディスカッションの不便さが目につきました。所が、全員が「これはリモートでやるしかない状況だ」と腹を括った所から、リモートワークが機能し始めたように感じます。いつか自身の職場に導入する際には参考にしたい経験となりました。今回みたいな緊急事態以外で強烈にリモートワークの必然性を共有するには結構なトップダウンの決断が必要な気もしますが、、

 

図らずもリモートワークについても学びながらMBA期間中最も困難なグループワークを乗り越えました。結果的になんとか上位チームに入り込み、一人3,000USDのスポンサーシップを確保することが出来ました。これから学校代表として出場する海外コンペティションの準備に於いて、もしもまたリモートワークが必要になったとしても、次回はもっと上手くやれる自信を付けました。

 

HKUST_入賞のお祝い

ミーティングはオンライン参加なのに入賞のお祝いはちゃんと来るロシア人、、

 

クラスの分断

 

2月10日からはオンライン振替で春学期の通常授業が始まりました。当初、2週間のオンライン振替の後、対面授業を再開するという予定になっていました。このオンライン振替はZoomというソフトウェアを使いましたが、その様子を#ZoomBAというハッシュタグでインスタグラムに投稿したりしながら、各々前向きに対面授業再開を待ちました。

 

HKUST_オンライン振替

オンライン振替とは言え、だいたい誰かの部屋で誰かと一緒に受けています

 

さて、待ちに待った対面授業の再開を翌週に控えた2月13日、突如学校から「状況が改善するまで対面授業を取りやめ、当面は引き続きオンラインのみでの授業とする」という旨が発表されます。対面授業を楽しみにこの2週間を我慢してきたこと、またチームや個人によっては、この前後に発表されたEPSや交換留学先の結果へのフラストレーションもあったのかもしれません。ここでクラスの感情が爆発します。

 

学年全員が入っているWhatsAppのメッセージグループにはrefund(授業料返還)を求める声、それに対して穏便に理解しようと諫める意見、更にそれに対する反論等、様々な反応が入り乱れます。元々我の強いMBA生達、少し目を離せば長文の演説のようなメッセージが何十通も届いており、喧々諤々、というより無秩序に近かったかもしれません。悲しいことに、そこで自分の意見との相違を見たり、クラスメート同士が言い争う所を見たくない人たちがぱらぱらとメッセージグループを離脱していきました。学年95人ですが、2月22日現在、なお6人のメンバーを欠いています。

 

意外にもそんな中、refund派も穏便派も集めて息を抜く機会を作ってくれたのは、平時リーダー的存在でもなく成績も下位、でも心優しいとあるインド人のクラスメートからでした。前職時代に教えられ今でも心に残っていることですが、「最後は人格、人の気持ちが分かる人間が上に立つ」という言葉を思い出しました。この夜は寮でコロナビールを片手に彼の手料理を楽しみました。

 

HKUST_寮でのパーティー

写真右隅が主催者 この後も続々と学生が集まりました

 

 

副学部長、寮に現る

 

2月14日、クラスからの要望にこたえる形で、学事と副学部長が学生寮のテラスを訪れミーティングが開かれました。公の場に副学部長が現れるのは入学時のオリエンテーション以来でしたが、お話は以下のような内容でした。

  • 元々、交渉の末HKUST MBAは香港の全教育機関の中で唯一対面授業の早期再開を許されていた
  • 今回のオンライン振替の対応は、学校長ですら抗うことが出来ない政府からの指示で決定された
  • 授業料返還については学部長権限では応じることは出来ない

このミーティングの対応は誠実でした。ただ個人的には、この機会をもう一歩先手で持てていたらクラスメート間であそこまでの激論は交わされなかったのではないかとも少し感じます。証券会社勤務時代、暴落の度に学んだことでもあります。危機対応は例え情報が揃いきってなくても、先手で、誠実に。改めて肝に銘じます。

 

HKUST_副学部長ミーティング

テラスにて、海外の学生からのビデオチャットを通した質問に対応する副学部長

 

 

利益率99.9%!出席君ビジネス

 

2月下旬になっても状況はなかなか改善せず、クラスメートもストレスを溜めているように感じます。ただ、僕自身、どんな逆境の中にもチャンスはあると信じています。なんとかそんな姿勢を伝えられないだろうか。正直面白くないオンラインクラスを少しでも面白く出来ないだろうか。今しか出来ないことってなんだろうメッセージグループに長々と演説みたいな文章を投稿するのは柄ではないけれども、出来ることを考えました。

 

考えた末に出来たのがこれ、「出席クン」(英語名: Mr. Attendance)です。以下のように使用すればオンラインクラス中に離席することが可能です。後にWords Functionを追加し、フキダシから「Yes」、「I have a question」、「Bathroom」等のセリフを表示出来るようにしました。

 

 

コストはプリント代のみ、15分位チョキチョキして一個100HKD(1400円)、友人も満足、クラスもなんかほっこり、顧客、社員、社会ともに幸せになる悪くない小遣い稼ぎでした。さくっと3件の受注をもらい300HKD(4200円)売り上げましたが、本気でセールスしたら20個以上売った自信があります。

 

最初にお買い上げ頂いたお客様と

 

 

これから

 

僕が見て来た限り、学校がとれる対応策の選択肢は恐らくトレードオフで、

  • 感染拡大防止
  • 卒業スケジュール
  • 対面授業

の何かを獲って、何かを犠牲にしなければいけません。

 

HKUSTの場合は「感染拡大防止」と「卒業スケジュール」を保つことを重視、その為に対面授業をオンラインに切り替えました。予定された日程を維持し、また学内からは2月22日現在一人も感染者は出していません。中国本土のビジネススクールでは、対面授業を前提に2月中の授業は全てキャンセル、一方で卒業スケジュールに支障が出る可能性が有るという話を聞いています。シンガポールでは感染者が学内から出ても対面授業が継続されている学校があるという話を聞きました。(いずれ各アジア校の対応の詳細についてもお知らせする機会があればと思います)

 

日本の対応については、1月の段階から楽観しすぎているように個人的には感じていました。現時点でどの対応が正しかったのかは分かりませんが、いずれにせよ全ての人が満足する対応というのは難しいのだと思います。

 

所で、この混乱の渦中に発表された派遣交換留学先の決定については、私にとっては嬉しいニュースとなりました。選考を勝ち抜き9月からアメリカ東海岸のダートマス大学Tuckビジネススクールで勉強させてもらえることになりました。このように激動のアジアを拠点に戦いながら、同じ学費で後期はいかにもなアメリカのMBAの雰囲気も経験出来るアジアMBA、悪くないです。成績的には中の中の私がアメリカ名門校の限られた枠(ダートマスは2枠)に選抜してもらえたのは、どんな逆境であっても前向きに周囲を巻き込んで行動する姿勢を少なからず評価してもらったからではないかと思っています。

 

重ね重ね、この状況が続くのかどうかはまだ分かりません。来年は何かが欧州発で起こるかもしれないし、日本発かもしれない。ただ、どんな環境であっても前を向いて、行動を起こすしかないのだと今は信じて一日一日のMBA生活を送っています。

 

長文をご覧いただき有難うございました。また続報をお伝え出来ればと思います。また、進学や出願をご検討中の方は是非お気軽にご相談頂ければと思います。

 

 

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