【MBA留学体験記】今こそ香港の理由

今こそ香港3_HKUST_佐藤

プロフィール

 

佐藤 拓也_hkust

佐藤 拓也 (さとうたくや)

入学時年齢 : 31歳
入学前学歴 : 慶應義塾大学 環境情報学部 (2012年3月卒業)
MBA前 : 野村證券株式会社 (勤務年数6年)
MBA後: 戦略コンサルティングファーム
留学形態 : 退職私費
海外経験 : 無し
IELTS: Overall7.0 (L6.5/ R7.0/ S7.5/ W6.5)
GRE : Total 316 (Q166/ V150) (GMAT換算640)

 

 

はじめに

 

コロナによるプログラムの延長もあり2年間となった変則のMBA留学を終えました。9月からは戦略コンサルティングファームの東京オフィスで新しいキャリアをスタートします。

 

当サイトには、民主化デモコロナへの初動に際してもリアルタイムで寄稿をしており、今見返してもなかなかに激しい2年間でした。所で当時のレポートを読み返せば、「日本からマスクを取り寄せて高値で売ろう」と発想するなど倫理的に言語道断であり、サイト運営元のアジア留学協会に削除してもらおうかとよっぽど悩んだのですが、未熟な自分も含めてそれがその時々のリアルだと思いそのままにしています。2020年2月当時は、感染がこれほど世界中に拡大するとは予想だにしない状況でしたが、なんとか前を向かなければいけない、多額の学費ローンを抱えて踏み切った留学であるからには何かを得なければいけないと考えながら焦りもがいていたことを思い出します。

 

今回も、もしかしたら数年後に見たら恥ずかしくなるかもしれない位の、卒業直後の生の想いを勇気を出して書こうと思います。香港を選んだことは人生のベストチョイスの一つであり、その経験を残すことで少しでも誰かの挑戦を後押しすることが出来れば幸いです。

 

誕生日_HKUST_佐藤

32歳の誕生日は各国のクラスメートに囲まれて寮内にて。20代の頃には想像出来ませんでした

 

 

「中国化」でも「脱中国」でもない道

 

アジア留学を考える上で、中国という大国との関わり方は外せない視点になると思います。私は、日本人としてこれから求められる力は、米国と共に「脱中国」することでも、中国本土で「中国化」することでもなく、様々な意見の中でなんとかかんとか歩を進める力であると考えています。その観点で、香港に勝るロケーションはなかったと感じています。

 

カギとなるのは「多様性」であったと思います。受験期間中、耳にタコが出来るほど聞く言葉ではありますが、実はその定義や程度は学校によって異なります。

 

私なりの「多様性」の定義は「マジョリティがいないこと」です。米国や中国本土のビジネススクールの多くでは、学生の7割近くを母国出身が占めると聞きます。その国の文化を深く学べる一方で、マジョリティである母国出身者が全体の雰囲気を決めてしまう側面もあると思います。一方で、私の代のHKUSTでは中国本土3割、インド3割、その他アジア2割、欧米露等1割という構成で、過半を占める多数派が存在しません。だからこその困難があり、学びがあり、リーダーシップをとるチャンスがありました。

 

一発芸_HKUST_佐藤

各国が食事や出し物を披露するインターナショナルナイトにて。ジャパニーズ一発芸の後方にはマジ歌選手権方式の審査員

 

 

多様性の中で、日本人として戦った例として、ジャパンクラブの設立がありました。HKUSTではクラブ活動は毎年新設される形式をとっています。入学早々から有志で設立準備を行い、学生間の選挙で勝ち残ったクラブのみが学校公認クラブ枠として予算をもらえるというルールでした。

 

もしも学生の3割を占める中国人がチャイニーズカルチャークラブみたいなものを提案すればかなりの中国人組織票が入ります。インド人がインド系のクラブを提案しても同じです。実際にそういったアイデアも挙がったそうですが、最後に選ばれたのはチャイナクラブでもインディアクラブでもなくジャパンクラブでした。

 

ポイントは入学直後の段階から中国人グループとインド人グループでノリが異なり、中国人企画にインド票はあまり入らず、インド人企画に中国票がなかなか入らないことに気付いたことにあります。我がTeam Japan(日本人3人+各国の日本ファン)は連日連夜中国人主催の食事会で飲み明かし、インド人主催のパーティーで踊り明かしながら、中国・インド双方の支持を得たのでした。途中、シンガポール人のクラスメートから「日本単独でクラブを持つのは様々な国がある中で不公平だ。俺はインターナショナルフードクラブを設立する予定だから日本はその傘下に入れ」と迫られるという出来事もありましたが、それを撥ね退けての圧勝でした。

 

こういった経験は、留学体験記によくある「最初の一年間はネイティブスピーカーに囲まれて、語学で苦しむ中なんとか食らいついていった」というイメージとは大きく異なるものでした。初めての海外経験の中で「グループワークで発言して貢献した」というレベルでなく、気が付いたら初日から人を率い、交渉をまとめていたことはアジアMBAならではだったと思います。以後の授業等でも、米中間に日本人の自分が入ることでグループワークがスムーズに進むことが多々あり、日本人としての戦い方を体感する機会となりました。

 

寿司_HKUST_佐藤

中国人クラスメートは手巻き寿司で接待。回数を重ねるうちにだいぶ腕前も上がりました

 

 

アントレと香港

 

さて、MBAを志す方の中には、長期的には自身の会社を経営したいという想いを持つ方も多いのではないでしょうか。私自身も学費返済後の選択肢として思うところがあります。

 

一方で個人的には、起業について座学で学ぶことや、MBA生が会社を設立し箱だけ作って起業経験と称したり、無償で会社経営陣の前で提案プレゼンだけして実学と称するケースには違和感を感じていました。顧客を開拓し、売上を立てることこそが第一歩であると信じて行動した香港での小さなアントレ経験について少しご紹介したいと思います。

 

入学後、春学期から現地インターンとしてコンサルティングファームYCPの香港オフィスで7カ月に亘ってみっちりとコンサルタントとしての勤務経験を積ませてもらいました。前職野村證券で培った営業力には自信があったため、そこにMBAで学んだ経営理論、インターンで培ったアウトプットにする力を組み合わせて、この分野で受注活動から成果物の提供までをビジネスとして自力でやり切ってみようと決めました。中でも、日本に地理的にも近い香港の中小企業の中には「日本進出」という憧れのようなニーズが存在すると感じており、その領域であれば日本人としての付加価値も活かせると考えました。

 

現地に築いたネットワークから日本進出に興味がありそうな企業をピックアップし、アポイントを取得、提案書を作り面談、フィーの交渉まで行った結果、現地のヘルスケア系スタートアップと契約を結ぶことが出来ました。プロジェクト開始後は一学年下の中国人クラスメートと協力しながら、毎週中国人社長と激しく議論を交わし、約70ページの最終報告をまとめました。2カ月間のプロジェクト後には日本円にして数十万円ではありますが、満額の出来高フィーを頂くことが出来、私費留学後半戦の困窮状態をなんとか脱することが出来ました。本気のビジネスを通して、クライアント社長とは帰国後も国際郵便でニューイヤーカードを交換し、プロジェクトが実行フェーズに移っているという報告を頂ける間柄となりました。留学前は、国内で大企業の看板の下で金融商品を売ることしか出来なかった自分が、海外で身一つで経営戦略を提案して稼ぐことが出来たということは、将来自ら事業を興すことへの自信になりました。

 

これはアントレ系の授業をとったからというよりも、ワーカホリックで商いの匂いに敏感な人が集まる香港の街に感化され、地理的に日本人としてのビジネスチャンスがあったことの方が、背景としては大きかったように感じます。香港は世界でも有数の株式市場を有し、これから上場を目指す企業に関わるビジネスも多く、アジアの他都市と比しても独特の野心や活気のある街だと思います。ハリーポッターみたいな建物でのエリート教育があるわけではありませんが、きっと自分の行動次第では香港ならではのチャンスが待っているはずです。

 

将来の話_HKUST_佐藤

インドのお金持ちクラスメートと。「俺ん家、森持ってるからそれ使って将来一緒に観光業やろう!」って話

 

 

私費留学生根性

 

駆け回った留学期間でしたが、前述の街の雰囲気と併せて、留学形態も案外大事な要素だったかもしれません。香港のビジネススクールには勿論社費派遣生もいますが、私費留学生の割合が多い印象を持っています。この社費生と私費生の割合はクラスの雰囲気に影響を与えると思います。

 

私の場合、キャリアチェンジという観点では、私費生が多い環境が合っていました。例えば、私の代のクラスサイズは約100名ですので、MBAプログラムが始まると最低でも100回の「初めまして」が発生し、卒業後の夢を話すことになります。「社費派遣なので元の会社に戻るつもりだけれども、様々な機会にも目は向けてみようと思っている」×100回と「私費留学で学費ローンもあり、絶対に希望のキャリアチェンジを実現させなければならないのだ」×100回の繰り返しの間には潜在意識に違いが生まれ、そういった言葉の積み重ねは日々の行動や巡り会うチャンスに影響を与えたと思っています。

 

勿論、社費派遣生には就職活動がない分、家族との時間を大切にしながら、純粋に勉強に集中出来るという素晴らしさがあります。いずれにせよ限られた留学期間で日々行動の取捨選択を迫られる中で、似た意識の者同士支え合う関係も必要になると思います。どんな人に囲まれた学生生活を送りたいかは、是非卒業生や在校生と直接話してみながら考えてみて下さい。

 

野村香港_HKUST_佐藤

インドネシア出身のクラスメートは私の古巣、野村證券の香港オフィスに内定。一方、私はインド出身のルームメイトがかつて勤めた戦略コンサルティングファームへ。様々な夢とキャリアチェンジが交差する点であることを感じます

 

 

米中対立という機会

 

さて、行動次第ではチャンスにあふれている香港ですが、一方で米中対立のリスクについて気になるという方もいるかもしれません。米中対立の前線で学ぶという点も香港ならではですので、それについても触れたいと思います。

 

民主化デモや国家安全法の施行を経て、「香港の国際金融都市としての地位は失われていくのではないか?」、「他アジア株式市場が香港を代替するのではないか?」というような論調を見かけることがあります。1年半現地で過ごしましたが、個人的には真逆の見方を持っています。アジアに香港を代替出来る株式市場はなく、これから香港市場の価値は高まるのではないかと感じています。

 

民主化デモ当時、欧米系通信社の記事で香港の金融関係者のコメントとして、「金融業界人は金もうけのことしか頭にない。民主主義の闘志たちとは別のパラレルワールドに住んでいる」というようなものがありました。このことが良いか悪いかという議論は全くの別物です。しかし、民主化デモが巻き起こった一年間は、ニューヨーク市場から締め出された中国企業による出戻り上場ラッシュに香港の金融街が沸いた一年間でもありました。これは民主派を応援する立場の国では報道されにくいもう一つの事実だったようにも感じます。実際に現地投資銀行は香港上場の誘致部隊を拡充しており、その新設のポジションでのインターンを獲得した友人もいます。

 

日本人として、この機に東京の国際金融都市としての地位向上を願う気持ちもありましたが、残念ながら東京市場は言葉の壁等もあり海外企業の上場は現状数社しかありません。上海市場は厳しい国外からの投資規制を敷いており、これが緩和される方向には見えません。シンガポール市場については時価総額が香港の約七分の一以下と、規模的に大きな開きがあるというのが現状です。中国企業が上場し、そこに欧米投資家が投資出来るという香港市場の構造はアジアでも特異であり、これは今後も変わらないように感じます。

 

米中対立が進むほど、「リターンを追求する欧米投資家と中国の国家資本主義とが出会うことができる世界で唯一の場所」という香港の特別な立地は、複雑な輝きを増すのではないでしょうか。

 

帰国前夜_HKUST_佐藤

日本帰国前夜、香港での最後の時間をぎりぎりまでクラスメートと。世界でも随一のビザ発給環境下、クラスメートの半数以上は卒業後も香港に留まるため、独特の絆があります

 

 

おわりに

 

Intake 2019は様々な困難が直撃した学年でしたが、思えばこれらのトラブル無しにキャリアチェンジはありませんでした。コロナによる卒業延期というイレギュラーのお陰で現地でのコンサルティング業経験を合計9カ月に亘って積むことが出来、最終学期の交換留学がオンラインになったことで就職活動に力を注ぐこと出来た「塞翁が馬」な面もあったかもしれません。でもこれはアジアでのMBAには大切な心持ちだと思っています。

 

東南アジア市場の可能性に賭けようと思った矢先にミャンマーではクーデターが起こり、中国関連ビジネスの拡大を夢見た途端に香港では民主化デモが起こるわけで、今後の留学に於いてもこういったリスクに対峙する機会があると思います。そんなアジアでのMBAを有意義なものとする上では、ピンチをチャンスに変える気持ちが役立つのではないかと思います。そして、そんな困難も共に乗り越える意志を持つ同期が世界中から集まる環境には独特の刺激と絆があります。

 

長々と書いてしまいましたが、私自身、スコアと格闘している受験期間中、たまに読むMBA生のブログは全く違う世界のように感じていました。それでも、同じプログラムの卒業生やクラスメート等、身近なお手本を持つうちに、自分にも出来るんだという実感を持つことが出来ました。

 

是非学校選びの際には、プログラム内容やロケーションと併せて、そこに集まる「人」にも注目してみて下さい。直接話して実際に「人」を感じることを通して、卒業後の自分のイメージをもう一段具体化出来ると思います。各界で活躍する卒業生は皆、HKUSTファミリーの一員として受験から就職活動まで親身にサポートしてくれるはずです。今まで先輩方にお世話になりっぱなしだった分、私もこれからは卒業生として自身の行動と結果をもって後進を勇気づけられる存在となりたいと思っています。少しでも興味をお持ち頂けた方はお気軽にご連絡を頂けると嬉しいです。

 

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※内容は個人の意見であり、所属企業・部門見解を代表するものではありません。

 

 

<香港科技大学(HKUST)佐藤さんの在校生レポート記事>
【MBA在校生レポート】荒波を越えて 今だからこそ伝えたい香港MBAのリアル:コロナウイルス編
【MBA在校生レポート】荒波を越えて 今だからこそ伝えたい香港MBAのリアル:香港民主化デモ編

 

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