【アジアMBAの価値】卒業後は急成長中のベトナムへ!国立台湾大学GMBA卒業生インタビュー

近年注目度が高まるアジアMBAですが卒業後の進路としてのアジア就職はまだまだ事例が限られています。今回は2022年に国立台湾大学Global MBAを卒業し、ベトナムで転職した岡田さんからアジアMBA卒業後のアジア就職についてお伺いしました。

岡田善仁 Zen Okada

所属:Willis Towers Watson (WTW) Vietnam / Associate Director

出身校:国立台湾大学管理学院 (Global MBA) 修了 ‐ 2022年

その他資格:損害保険資格試験合格(台湾+シンガポール)

言語:日英中可(ベトナム語は勉強中)

損害保険業界12年、アジア太平洋地域での海外経験15年、日系ビジネス経験20年

現在の職業・仕事内容・ロケーションについて教えてください

2024年6月 世界三大保険ブローカーの一角である英米系WTWのベトナム法人で日系ビジネス責任者として着任し、顧客関係管理、マーケティングを担当し、損害保険を活用したリスクマネジメントを主に在ベトナム日系企業向けに提供しています。

具体銘柄でいうと財物、賠償責任保険、輸送保険等の一般的な保険から信用保険、M&A保険、サイバーリスク等の特殊リスクまで幅広くサポートしています。ベトナムの保険業界はまだ未成熟で、ローカル人材のリスク管理に対する意識もそうですが、保険商品の浸透としてもまだまだ成長余地の大きいマーケットであると感じます。

所属はベトナム法人ですが管轄はホーチミン、ハノイを含むベトナム全土に加えカンボジア、ラオス、また台湾歴が長かったことから台湾も兼任することになりました。急成長中のベトナムでは案件数も多いですが地理的な範囲も広くて出張が多く、大変ではありますがとてもやりがいを感じています。

当社ベトナム法人では従業員110人中、私が唯一の外国人従業員という立ち位置です。今のところ私が参加する会議は英語で行ってもらっており、ベトナム人社員は優しいなと思う反面ベトナム語も早く習得しなければという気持ちにもなります。

誕生日に会社で大きな花束を貰ってびっくり

これまでの経歴について教えてください

出身は東京で、経済学部を卒業後 投資用不動産の営業や店舗管理など経験しましたが、26歳まで海外経験もなく英語もまるっきり話せませんでした。

オーストラリアで語学学校に通い、ニュージーランドでワーカーとして就業し、日常の生活の中で英語に慣れてくると英語そのものはさほど苦にならなくなってきました。

そのタイミングでシンガポールのフランス系保険グループ子会社で就職が決まり保険業界のキャリアが始まりました。保険業界は30歳からなので所謂レイトカマーというやつです。

シンガポールでの就業経験はよい転機となりました。アジアのヘッドクォーター機能としてアジア各国の現地法人・パートナーと協力しながらお客様にサービスを提供し、同時にアジア各国の文化や諸制度にある程度の理解を深めることができました。2年半ほどの勤務で残念ながら在シンガポールの会社が事業撤退となり、そのタイミングで台湾に移住することにしました。

前職は今年の5月まで約9年間、在台湾大手欧米系保険ブローカーで勤務し、その間に国立台湾大学MBAを卒業しました。働きながらMBAに通ったので卒業までに3年かかりましたがあの時の大変さは血肉となったと思います。

アジアMBAがどのように役に立ったか教えてください

フレームワーク的な考え方で網羅的に素早く要点を理解できるようになることや言語的文化的な理解が深まるなどの効果ももちろんありますが、働きながらMBAに通うことでリアルタイムに学んだことを仕事に応用できたのはよかったと思います。

とにかく周りが優秀なので挫折感だったり劣等感をたくさん感じることもできますし(苦笑)、自分ができない分巻き返そうと切磋琢磨する経験で、生活そのものはブラック企業で働いているかのごとく激務となりますが、それは繰り返し早く処理するトレーニングそのものでビジネスパーソンとして必要な基礎体力を作ったように思います。そのおかげか、在学中に昇格もできましたし、キャリアアップに繋がる転職もできました。

日系企業ではあまりMBAを評価されにくいという傾向はよく耳にしますが外資系企業は海外MBAを評価してくれやすいように思います。特にここベトナムでは台湾との関りが深いことから台湾大学の評価も高いように感じています。

また、普通にいち企業で働いているだけでは出会うことのない広範な人脈は宝ですね。母校台湾大学は卒業生ネットワークが強く、卒業後も多くのネットワーキングの機会がありますし、外国人留学生の多くも世界各国にちらばっていくのでベトナムにきてから早速卒業生で集まる機会がありました。やはり海外就職先でローカルの人脈があるといいですね。

1年に1回、在校生/卒業生が一斉に集まるイベント

アジアMBA卒業後はどのように就職活動をしましたか

おそらく読者の方々が最も気になる部分かと思います。MBA卒業後は①同業・隣接業界へ転職でキャリアアップ、②異業種へのキャリアチェンジ、③社内でキャリアアップ、④起業、⑤PhDなど多様ですが、私は卒業後しばらく転職活動をしませんでした。

MBA在学中に子供が2人増え、特に下の子が安定するまでは住む場所を変えたいと思っていませんでしたし、MBA卒業後は台湾の損害保険資格(中国語)勉強に集中していました。その間なにもオファーがなかったわけではないですがほとんどスルーしていました。

卒業から一年後、台湾有事ニュースの風評被害により新規ビジネスの件数が少なくなった影響も一因としてあり、台湾内でのキャリアアップは簡単ではなく、まずは自社グループの他国拠点で転籍の可能性を探っていました。

転籍のほうが社内リソースをそのまま使えるものが多く、転職リスクを最小限に抑えられること、また、当社グループでは転籍はその都度転職と同じように給料交渉のチャンスがあったためです。その時の候補はベトナムとタイがどうやら熱いマーケットであるようだとリサーチはしていたのですが、生憎グループ会社内の欠員は先に他の人で埋められチャンスが回ってきませんでした。

そんなタイミングでLinkedIn経由で香港のヘッドハンターから在ベトナム同業他社駐在案件を紹介してもらったという経緯でした。

特に国を跨いだアラフォー転職の体験談として、よい転職をするにはある程度の期間が必要だと感じました。ヘッドハンターからの連絡から新しい会社へ入社まで7か月ほどかかりました。面談6回し、就労許可証とビザの申請に3か月程度かかり、結果、転職のタイミングとしてはMBA卒業2年後となりました。

海外就職について具体的な体験談を教えてください

私はシンガポール、台湾、ベトナムでキャリアアップすることができました。海外就職は一見華やかな部分もあるかもしれませんが、マイノリティーとして自分のポジションを守るには結果を出し続けることが必要だと強く感じます。

シンガポールの職場は撤退で全員解雇となりましたし、台湾の仕事も業務自体は未経験から始めましたが2年目結果が出ていなく詰められることとなりました。そこでたまたま台湾人の同僚が助けてくれたからこそ生き残ることができましたが、その助けがなかったらクビになっていたと思います。とにかくローカルの同僚と良い関係性を築くことが重要と思います。

今台湾はある意味風評被害に悩んでいます。台湾に住んでいれば平和と安全を感じることができますが、台湾有事と過剰なニュースが流れるようになれば日系企業を含む外資の新規投資はほとんど入ってこなくなり、仕事もほとんどありませんでした。

一方で、世界の工場一極集中を避ける流れからベトナムへ新規投資が活発化しており、案件数ベースでも金額ベースでも体感ベースでもベトナムのほうが台湾より3倍忙しいです。保険業界については人手が足りていないように感じます。かなりやりがいのあるマーケットだと思います。

日常業務にしても台湾人は比較的しっかりしていることから日系企業の経営層も台湾人社員にまかせっきりで日本人である私が実務に入っていく必要もほとんどありませんでした。一方で、ベトナムはなにか事故があった際はお互い様の精神で(これはある意味よい面でもあるが…)賠償責任の概念薄く、リスクマネジメントの意識が弱いため、企業保険に関しては日本人経営層が積極的にリスクマネジメントに関与していく必要があるマーケットであると考えられます。

ベトナムは興味深い国で大きく分けて北のハノイと南のホーチミンで別々の国のように国民性が異なります。北は保守的でなにかビジネスを始めようとしてもなかなか進まないものの、一度入り込んだら長期的な関係を築ける傾向にあり、南は深く考えずにとりあえずやってみなはれ精神でビジネスの開始は早いものの変更やらパートナーシップの切り替えなど長期的に維持するのは大変です。

ビジネスの規模については北が大きく案件数は少ない、南は中小規模がほとんどであるものの案件数は多い。街並みや文化も北はフランスの影響を強く受けており、南はアメリカの影響が強いという特徴があります。ベトナム人が話す英語も南はアメリカの影響が強く、北はフランス語と混ざってABCが「アー、べー、セー」になるのを発見したときは嬉しかったです。

経済成長率もアジアトップで今後も楽しみですし、知れば知るほど奥が深いベトナムマーケットは面白いです!心折れそうになることもあれば同時に楽しいことも多いアジアMBA&アジア就職ですが、私は心から来てよかったと思っています。これからアジアMBA、アジア就職を検討されている方の参考になれば幸いです。

ベトナムはおしゃれなお店も多い
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