プロフィール
仲村 真人(なかむら まさと)
香港科技大学(HKUST)フルタイムMBA Intake2022
2013年に東京学芸大学を卒業後、プラントエンジニアリング会社及び金融機関にて一貫して再生可能エネルギー発電所の建設、事業開発、プロジェクトファイナンス組成に従事。2022年8月より香港に私費留学(留学時年齢33歳)。
はじめに
皆さん香港と聞くとどのようなイメージをお持ちでしょうか。2019年のデモ、2020年から続いた新型コロナの影響で、香港は閉ざされた環境となってしまったと思っている方も多いかもしれません。特に日本での香港の報道を見ると、あまりポジティブな内容は流れてはいないかもしれません。
しかし、実際の香港は既に新型コロナ・デモの前のかつての観光客でにぎやかな香港に戻りつつあり、新型コロナの規制も完全に撤廃されており、日本よりずっと住みやすいことお約束します。
本記事では、私があえて今この香港に来て、フルタイムMBAを選んだ背景を紹介します。
香港の住宅事情
香港は、世界でも有数の人口密度を誇り、平地が少なく、その土地の希少性から、特に、中心部の島は、建物が高層化しており、狭小な部屋が多く存在するため、十分な住居スペースを確保できるのか、心配する留学生は多いでしょう。特にHKUSTのMBAの特徴として、キャンパス内の寮にクラスメイトみんなで住むことができるというメリットがありました。しかし、2022年に入学した私たちの代から、MBA生は寮に住むことができなくなってしまい、自分自身で家探しをしなければならなくなりました。
学生寮のメリットとして、クラスメイトと住むことで仲良くなれる、学校の施設(ジム、スポーツ施設、図書館、食堂、スーパーなどがいつでも使える、通学が楽といったことが挙げられます。これは私も入学前はHKUSTに寮があることを前提としていたので、上記のような環境を期待していたのも事実です。一方、学生寮に住めば家賃が激安になる、というわけでもなく、クラスメイト複数名とルームシェアした方が結果安価になる場合もあり、かつキャンパス外に住むことで中心地へのアクセスが良くなる点やショッピングモールにも近くなるので、メリットとデメリットの両方があると思います。HKUSTのクラスメイトは多くが学校近くの将軍墺エリア(TKO:Tseung Kwan O)であるTKO、寶琳(Po lam)、坑口(Hang Hau)、康城(Lohas Park)に住むため、誰かの家に集まる際も結局集まりやすいと言えます。
HKUST生が住居を確保する方法
HKUST生が住居を確保するためには、いくつかの方法があります。
- クラスメイトとシェアハウスを行う
シェアハウスは、複数の人が共同で住むことができる住居であるため、費用を抑えることができます。また、香港の賃貸住宅には、家具が完備されていることが多いため、荷物を減らすことができます。さらに、シェアハウスは個室のほかにリビングなど比較的広いスペースが確保されているため、一人で住むのに比べ、生活の質が高くなる可能性があります。
私はインド人クラスメイト2人とロハスパークというエリアにてルームシェアを行い、3人で17,000香港ドル(約30万円)で、一人当たり10万円以下で住むことができました。HKUSTのある将軍墺というエリアは香港の中でも新界エリアに属し、中心地からやや遠いものの、最近開発されつつある比較的新しい街であり、多くのタワーマンションが建ち並び、各アパート群が専用プールやジム、レクリエーション施設などを保有しており、安価に使用することができます。
2. 地元の不動産屋などで一人用のフラットを探す方法
ルームシェアする場合も同じく地元の不動産屋を使いますが、一人暮らしをするという選択肢もあります。その場合、将軍墺エリアに加えて、香港島側も選択肢に入り、私も北角(North Point)の周辺を探したことがありました。一人の場合は広さ15~30㎡のレンジで6500香港ドル(約12万円)からありますが、安いアパートはかなり狭く、また建物も築30年以上が一般的のため、かなり古く、外観を見たら住む気にはならないかもしれません。内装は部屋によってかなり様々なため、同じ建物で合っても内見を行うことは必須です。一人暮らしをしているクラスメイトは、10,000香港ドル以上は払っているケースが多かったです。
3. サービスアパートメントに住む
一部日本人のクラスメイトはサービスアパートメント(ホテルの一室を長期間貸切る)に住んでいました。一部の高級ホテルを除き、キッチンなどはないケースも多いですが、定期的にクリーニングなどが入るため、きれいに生活することができるメリットがあります。勿論ルームシェアをしたり、フラットに一人で住むよりも家賃は高額になる傾向がありますので、予算に余裕があればこういった選択肢もあるかと思います。
4. ルームシェア用に空いている部屋に住む
ルームシェアについてはクラスメイトとだけではなく、AirbnbやFacebook、様々なウェブサイトやアプリでルームメイトを募集する媒体があり、短期の利用から長期の利用まで、住む場所を探すことができます。家賃が高い香港では見知らぬ人とルームシェアをすることは一般的で、学生や若手社会人が利用しています。
香港での生活
香港では新型コロナ関連の規制で3週間のホテルでの強制隔離やマスク着用の義務などがありましたが、現在ではそういった規制も全て廃止されております。また、香港の中国化の影響があるかと言われると、日常で意図してそういった活動に参加しない限り、全く影響はなく、中国大陸と違い香港ではGoogleもLINEもWhatsAppも使用することができます。
特にアジアMBAとして進学先を検討される際に比較されるシンガポールと日常生活において大きく異なる点としては、飲みニケーションのハードルの低さがあります。香港はアルコール度数30%以下の酒類については酒税がなく、ビールが水より安いです(500ml缶で約10香港ドル=約180円)。シンガポールは、アルコール類の価格がとても高く(アルコールだけではなく、コーラといった清涼飲料水も高い)、さらに夜10時半以降に公共の場でお酒を飲むことや、スーパーやコンビニでアルコールを購入することができません(バーやレストランは除く)。一方、香港はそういった規制もないため、私費留学でお金のない私は、コンビニで缶ビールを買って、将軍墺(TKO)のウォーターフロントでクラスメイトとビールを飲んで語り明かすことが大好きでした。そこで飲んでいると散歩中やランニング中のクラスメイトも通りかかることがあるので、彼らを捕まえて一緒に飲むこともありました。そういった学生らしい生活が安価に送れることも香港の魅力だと思います(規制関係は全て2023年12月現在)。
春学期以降は、日中インターンをしているフルタイムMBA生や日中仕事のあるパートタイムMBA生を配慮して、選択科目の夜間授業が香港島の中環(セントラル)のキャンパスにて行われます。その授業後は、セントラルの中心地である蘭桂坊(LKF:Lan Kwai Fong)で食事をしたり飲みに行ったりもできます。パートタイム生は香港人が多いですが、既に香港で働いているため、一緒に飲みに行って就職活動のための情報交換をすることも可能です。香港は深夜でも公共バスが走っているため、僻地に住んでいても安心してセントラルに遅くまで滞在することもできますし、タクシーで帰宅したとしても200香港ドル(約3600円)で、3~4人で帰れば一人1000円前後で帰ることができるため、ナイトライフも充実していると言えます。
私はインド人2人とルームシェアをしていたため、週末はよく尖沙咀(Tsim Sha Tsui:チムサーチョイ) のインド料理屋に連れていかれました。幸いにも辛い料理は好きでしたし、ベジタリアンメニューでも様々なオプションがあり、インドに住む機会があればベジタリアンになっても問題ないなとも思えるくらいインド文化にも触れることができました。また、ロハスパークに住んでいたクラスメイトはインド人が多かったため、そもそも私はインド人の集まりによく参加しており、いつも自分自身をHalf Indianと自称していました。インド人はコールセンターかというくらいいつも電話をしていたり、前置きなしでリビングでいきなり大事なWeb面接をスピーカーモードで始めたりと、色々と日常生活では驚くことも多かったですが、お互いに干渉しすぎることも迷惑をかけることもなく、結果としては彼らとルームシェアをしてよかったと思います。何度か料理好きのインド人のシェアフラットのインドカレーパーティーに呼ばれましたが、最終的には 日本式カレーを持参したり、逆に日本式カレーを作り彼らを招待するなどカレー外交に励みました。ルームシェアについて言えば、同じ国同士のルームメイトを見つけるクラスメイトが多い中で、日本人はインド人や中国人、韓国人とルームシェアしており、日本人は積極的にコンフォートゾーンを抜け出そうとしていました。
また、香港には日本のものがあふれています。ドン・キホーテやマツモトキヨシ、DAISO、一蘭、吉野家、回転寿司、居酒、香港で日本のものや食で揃わないものはないと言っても過言ではないので、新たな生活を始める際のハードルも非常に低いですし、ご家族で留学される方にもおすすめです。
アジアだからこその学び
MBA留学を検討している人の多くは、多国籍な人たちや様々な宗教観や多くの海外経験を持ったクラスメイトとディスカッションを行いたいという方も多いかと思います。米国のスクールは米国人がマジョリティではありますが、欧州のスクールは世界中から生徒を集め、50か国以上の国籍が集まるといったことも珍しくありません。その点HKUSTはアジアのMBAであり、アフリカやアメリカ、ヨーロッパの学生が多いかと言われれば、決してそうではなく、やはり中国、インド出身のクラスメイトが多いです。しかし、将来香港やシンガポールというアジアの中心地で働くことを想定する上では、その現地の大学院を修了するメリットは大きいですし、特にネットワークを広げながらジョブハンティングの機会を探ることの多い香港では、なおさら現地にいることが重要となります。また、クラスの多くがノンネイティブであり、アジア圏の学生であるため、日本人でも発言の機会やクラスの中心となれる機会、またHKUSTでは少人数でプレゼンテーションやディベートの機会も多く与えられるため、実践のチャンスが多いと感じました。
HKUSTでは、多くのカンパニービジットの機会もあり、金融機関、グローバルメーカー、スタートアップ、VCなど様々な企業を訪問しました。学部生も含めて多くのアラムナイが働く企業が多い香港だからこそ、HKUSTのMBA生としてカンパニービジットの意味はありますし、何名かのクラスメイトはビジットした先でインターンを獲得していました。さらに、香港の大学・大学院を卒業するとその後2年間は現地に滞在できるビザ(IANG VISA)が付与されるため、米国やシンガポールのようにビザの心配をする必要がしばらくないことも大きな魅力です。
交換留学
HKUSTでは、約3割の人が交換留学に参加し、米国やイギリス、ヨーロッパのトップスクールに1ターム滞在することができます。私はロンドンビジネススクール(LBS)に交換留学し、世界中から集まった多くの友人を作ることができました。ロンドンでの生活は非常に短かな経験でしたが、急激な物価高の中で改めて海外での生活の厳しさを感じると共に、近場に様々なアクティビティのある香港の魅力を再認識することもできました。どのスクールや地域にもいい面と悪い面があり、そういった違いを感じることができるのも交換留学の魅力であり、時差の関係上で日本や香港での就職活動に影響があるものの、交換留学に参加してよかったと思います。香港では交流の機会が多くなかったクラスメイトでも、同じLBSに交換留学に来たことをきっかけに同じHKUST出身者として仲を深めたりすることもでき、MBAプログラムには多面的なアクティビティが重要であると認識しました。
さらに、HKUSTでは多くの交換留学生を受け入れているため、欧米のトップスクールのMBA生でアジアでのビジネスに興味のある友人とも交流を図ることができます。
終わりに
新型コロナの影響でWebベースでのコミュニケ―ションが増え、MBAを志す人の中でもオンラインMBAを選択したり、治安上の問題やその他の事情で日本のMBAを選択する人も増えているかもしれません。HKUSTでもコロナ禍の2022年にアジア初の完全オンラインMBAがスタートし、日本にいながら、あるいは海外に駐在しながら英語でMBAの学位が取得できる機会が増えました。勿論、既に多くの海外経験があるといった人に改めて仕事を辞めてフルタイムで海外留学するということがベストオプションではないと思いますし、あくまでどのような選択をするかという点についてはキャリア形成全般に言えることではありますが、自分自身にとっては海外MBAへの挑戦、何よりもそしてフルタイムで海外での経験をキャリア面でも生活面でも経ることはなくてはならない経験であったと、MBAを終えたばかりの今でも変わらぬ気持ちでいます。特に、自分の代では日本人クラスメイトも多く、図書館で遅くまで課題をやりながら、将来のことについて不安と希望を混ぜながら語り合った経験は、一旦仕事から離れてみないと感じられないでしょうし、多くの刺激的な経験から新たな学びを経て、キャリアチェンジしてみようという気持ちにもなります。そのようなリスクを取ってわざわざ海外のこの地で出会ったクラスメイトという存在も香港生活ではかけがえのないピースだと言えるでしょう。
最後に、このような貴重な経験ができたことも、家族の支えがなければ経験することもできなかったことであり、その機会を与え挑戦させてくれたことに感謝すると共に、本記事がフルタイムMBA留学に悩まれている多くの方に届くことを祈っています。