大手日系企業が数十人の社員を毎年米国MBAへ派遣していたのも今は昔。今日は米国MBA派遣の全体数は減少し、その反面、アジアMBAの留学生数はここ数年で大きく伸びています。本コラムでは、自身も社費派遣にて香港科技大学(HKUST)MBAに留学した、アジア留学協会の小林より、企業や受験生からの問い合わせが増えるようになってきました “アジアにおける社費MBA” についての傾向とベネフィットをご紹介します。
小林 峰 (こばやしたかし)
香港科技大学(HKUST) MBA 2019年卒業。2010年4月より国内大手通信会社に入社し、同社、国内グループ会社、インドネシア現地法人において法人営業に従事。社費派遣にて、2017年夏より HKUSTに入学、2018年夏よりLondon Business Schoolへ交換留学。卒業後は派遣元法人にてAPACエリアのPMI(経営統合)に従事。シンガポール在住。
アジアMBA社費留学の傾向
アジアMBAプログラムの黎明期
世界経済のアジア/新興国へのシフトは多くの方の目に明らかであり、その影響はMBAも例外ではありません。20年前に欧米の学校が上位を独占していたMBAランキングはここ10年で様変わりし、世界5位CEIBS(2019)(*1)、世界6位HKUST(香港科技大)(2011)(*1)と、常にアジアのMBAプログラムが上位にランクインするようになりました。社費MBAの派遣基準として、”世界ランク20位以上”というルールをよく耳にしますが、アジアMBAは十分選択肢として入ってくるのではないでしょうか?
(*1) Financial Times Global MBA Rankings
アジアMBAプログラム 入学者、企業派遣者数の推移
ここ10年のトレンドでは、アジア主要10校(*2)はFull-Time MBAの日本人生徒数が約5倍(9名(Intake 2007)→43名(Intake 2017))に増えた一方、米国主要10校(*2)では約半減(108名(Intake 2007)→58名(Intake 2017))しています。
今年は約40人がアジア主要10校にIntake 2019として入学をしています。そのうち、社費学生の比率は3割程度で、例年と同様の比率です。特筆すべきはシンガポールのNUS(シンガポール国立大学)であり、Intake2019の日本人学生16名(うち社費6名)という入学者数は欧米MBAと比べても多く、シンガポールへの注目の高さが伺えます。学生の派遣元企業は、金融、商社、コンサルティング、メーカー、通信、鉄道といった幅広い業界にわたります。
なお、直近5年の主要3エリアトップの社費/国費派遣生(Full-Time MBA)は、NUS(シンガポール国立大学)が30人、HKUST(香港科技大学)が8人、CEIBS(中国・上海)が4人という結果です。
(*2)アジア主要10校は大陸(CEIBS、清華大, 北京大, 長江商学院)、香港(HKUST, HKU, CUHK)、シンガポール(NUS, NTU, SMU)の10校、米国主要10校はHarvard, Stanford, MIT, Wharton, Kellogg, Columbia, Booth, Stern, Haas, Tuckとし、外部データをもとにIntake2007, 2017の学生数を集計
市場特化の中国大陸、ダイバーシティマネジメントとしての香港/シンガポール
アジアMBAの社費派遣のタイプとしては、大きく二つの潮流があります。
一つ目の潮流は、「卒業後特定の市場で働くこと」を条件として派遣をされるタイプです。最近のトレンドですと、中国市場へのビジネス立上げや事業拡大をミッションとした企業が上海のCEIBSや北京の清華大学をはじめとした中国大陸のトップ校へ社費生を送る傾向があります。またインドにおいても、ISB(インド商科大学院)というトップスクールがあり、今日時点では日本人留学生は少ないものの今後増えることが予想されます。
二つ目の潮流は、従来の欧米MBAへの社費留学と同様に、「ダイバーシティに揉まれながら経営学を習得する」タイプで、アジアですと香港やシンガポールが選ばれる傾向があります。香港/シンガポールのMBAは、90%超の高い留学生比率が特徴であり、文化的背景の違う学生との協働を日々経験します。日本人が授業やクラブ活動をリードするということは勿論、日本人がインターナショナルケースコンペで優勝/入賞するといったケースも多くみられ、多様性の中でリーダーシップを身につけ、派遣元企業に戻るという企業/学生の期待に応える環境が提供されます。
では社費派遣元の企業、派遣学生にとってのアジアMBAの利点とはどういったものでしょうか。
アジアMBA社費留学のベネフィット
アジア市場における人材活用の即効性
卒業後もアジアに残って働く社費留学生が多いのはアジアMBAの大きな特徴でしょう。
製造業/Fintech産業における中国大陸への派遣、金融業界における香港への派遣、不動産業におけるシンガポールにおける派遣など、自社の業界/戦略事業にあわせて社費留学生のプログラムを決める企業も増えています。これらの社費学生は授業で学んだ経営理論を実ビジネスに応用し、ローカライズさせることが就学中から求められます。留学先での学びが短期間で活かせる点は、企業にとっても学生にとってもメリットでしょう。留学後1年以内に海外に駐在をする卒業生は多く、私自身もその一人です。
アジア市場に根ざしたネットワークの構築
アジア市場の重要性が増すにつれ、現地に根ざした地の利、人の利を活用する重要性も大きくなりますが、まだまだ大手日系企業の経営層世代は米国MBAホルダーが中心です。中長期的な人材ポートフォリオの観点から、アジアMBA人材の需要は高まってくると考えられます。
アジアMBAにおいては、中国語をはじめとした第二外国語のプログラムや特定の地域に特化した授業に限らず、Tencent/Alibabaといったアジア発リーディングカンパニーやGrab/Go-Jek等のメガコーンで働くアジアMBAアルムナイとのネットワーキングが容易で、人材を効率的にローカライズできます。アジアMBAには、自身のキャリアをアジアで最大化させようと世界各地からエリートが集まってきており、彼らとのヒューマンネットワークが卒業後から長きに渡り活かせるというベネフィットはいうまでもありません。(*3)
(*3)卒業後のAsia/Pacific Region就職率(香港/シンガポール) (Sources: 各校Career Report)
HKUST:95% (HK55%, China 9%, Other Asia Pacific 31%)
CUHK:93% (China, HK, India, Indonesia, Japan, Taiwan, Vietnam)
NUS:89% (Asia44% Central Asia1%, East Asia12%, Southeast Asia 6%, Singapore 21%, South Asia 3%)
HKU:88% (HK47%, China 13%, Other Regions of Asia 21%, India 7%)
高い投資効果
アジアMBAの学費は800万円以下のプログラムが多く、その費用に欧米/アジアトップスクールへのExchangeも含まれます。他方、米国MBAであればランクを問わず学費だけでも1500万円を超えてきます。前述の通り、世界的にみてもアジアMBAは授業/学生の質ともに高い評価をうけており、その費用対効果の高さにも注目が集まっています。
また、アジアMBAは、1年間〜1年半というプログラムが大半を占め、より効率的に修了することが可能です。でもHKU(香港大学)は1年のインテンシブプログラム(最短で9カ月で終了可能)を持っており、短期間で卒業をし、業務に復帰をしてもらいたい企業/したい学生のニーズにも応えているのではないでしょうか。
以上、社費留学という広い観点から、昨今のトレンド、そしてベネフィットについて記しました。本協会は、日本のアジアビジネスをリードする人材の育成及び日本企業のアジアビジネス力の向上を目的とし、今後継続的に社費留学生のアジアMBA留学に関するコンテンツ(留学生、卒業生、派遣元企業、学校へのインタビュー等)を発信していく予定です。