【MBA留学体験記】ナンヤン理工大学(NTU)内海 雄介 <Class of 2018>

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目次

プロフィール

名前内海 雄介 Utsumi Yusuke
入学時年齢29歳
MBAナンヤン理工大学(NTU)(2018年7月卒業)
学歴早稲田大学商学部(2010年3月卒業)
職歴(現職/MBA後)Medallia, Manager, Professional Services(シンガポール勤務)
(前職/MBA後)Rakuten Asia, Senior Product / Project Manager(シンガポール勤務)
(MBA前)BayCurrent Consulting, Senior Consultant(日本勤務)
留学方法私費、妻帯同
海外経験(MBA前)なし
TOEFLTotal 103 (R27/L27/S22/W27)
GMATTotal 680 (M49/V32/AWA5.0)

入学前

アジア就職を前提にしたスクール選択

まずアジアを選んだのは、もちろん他の地域に比べ経済が伸びているというのもありますが、自分の市場価値を最大化するというのが主な理由でした。「アジア」とひとくくりで話すことが多いですが、実は多様性に富んでいます。これまでアジアの様々な国を訪れましたが、人種、宗教、価値観、食べ物、どの国も大きく異なっています。母国である日本を含め、このアジアの多様性をプロジェクトの中でマネージできた時に、自分の市場価値を最大化できると考えました。

そのアジアの中でシンガポールを選んだ理由は三つあります。一つ目は多様性です。クラスメートだけでなく、国自体も多様性に富んでいるのでその環境に身を置くことで学べることが沢山あります。二つ目は、英語を駆使することでビジネスができるということです。アジアの中で優れたスクールを探していた時、シンガポールと香港に最初は絞り込んだのですが、シンガポールの方が就職に有利だと判断しました。というのも、香港では中国語のスキルを要求されることもあると聞いたからです。(後で気付くのですが、英語で就職できるという点は正しいのですが、シンガポールはビザ発給の条件が年々厳しくなっているのでそこも考慮すべきでした。)三つ目は、シンガポールがアジアビジネスのハブになっているということです。多国籍企業の多くがアジア拠点をシンガポールに置いています。卒業後は、シンガポールにアジア拠点を置く会社で働くことにより自分の目的を達成できると考えました。

ナンヤン理工大学(NTU)を選択した理由も三つあります。一つ目は、他のスクールと比較してクラスメートが多様であることです。毎年生徒は約20ヶ国からやってきます。また、各国籍に上限を設けていることもあり、一つの国籍が多すぎるということもありません。二つ目は実践的なプログラムであるということです。どの授業もグループワーク中心であり、理論を学ぶだけでなく、それをどう実戦で活用するか、に重きを置いています。また、コンサルティングプロジェクト、ケースコンペティションなどにも力を入れており、実践的なスキルを磨く機会に恵まれています。三つ目は、フィーリングです。こればかりは上手く説明はできませんが、キャンパスビジットをし、アドミや卒業生と話す中でフィットしたのがNTUでした。(結局私はNTU一校だけに出願しました。)

死ぬほど英語を勉強したMBA準備

私は留学の経験も一切なかったので英語で苦労しました。社会人になった時から漠然とMBAに行きたいという思いはあったのですが、MBAの準備を開始する三年前までは全く英語が話せない状態でした。(TOEICは400点台…)そのため、約三年間は死ぬ気で英語を勉強し、ある程度話せる状態になったタイミングでMBAの準備を開始しました。MBA準備としてはTOEFL用に約半年の勉強期間を設けて、出願の一年半前から計画的に準備を開始しました。そのため、英語だけでも約四年間は費やしたと言えます。

準備のコツとしては習慣化してしまうことだと思います。私はMBA準備を始める前の英語学習の段階から、意地でも平日朝一時間・夜二時間、週末は一日中勉強に時間を費やしていました。それをしないと気持ち悪い、例えるのであればシャワーを浴びたり、歯磨きをしたりする、といったレベルまでに習慣化したことが一つの鍵だったのでは、と考えています。まずは自分の立ち位置を把握し、現実的なスケジュールを立て、勉強を習慣化する、それによって孤独になりがちなMBA準備もそこまで不安にならずに進められたと思っています。

在学中

MBA全体スケジュール

NTUのカリキュラムは、約一ヶ月のPrep Courseから始まり、約三ヶ月のTermが三つあります。Termの間に休みはありますが1~2週間程度と短いです。そのため、全体としては1年弱で終了する濃密なプログラムとなっていました。ExchangeやDouble Degreeを取得する人は、プログラムが終了してから開始していました。

<取得コース数>

各タームで取得したコース数

<忙しさ度合>

各ターム毎費やした時間を%で表示

印象に残る、役に立つ授業2つ

 NTUの看板授業:Technology & e-business

NTUの看板授業であるTechnology & e-businessが印象に残っています。教授は数々の賞も受賞されているVijay Sethiです。各授業で、誰もが知っているIT企業(Google、Facebook、Alibaba、Airbnb等)一社を取り上げてケースディスカッションをします。内容としては、これらの企業の革新的なビジネスモデルを、様々な理論を交えつつ学んでいくというものです。これだけ聞くと他の大学にもありそうですが、この授業を素晴らしい授業にしているのは教授のスキルです。彼のケースディスカッションの仕切り方(質問内容、質問を投げかけるタイミング、発言への返答等)が絶妙で、常に考えさせられ新しい発見があります。特にこの授業はParticipationに重きを置いているので、私は勉強会として事前ディスカッションを各授業の前に開催し、3~4人のクラスメートと違う視点からの意見を交換して、理解を深めたりもしていました。

シンガポール企業のリアルな現場を学んだSPAN

もう一つ、SPAN(Strategy Project at Nanyang)が印象に残っているのと共に、シンガポールの企業を理解するのに役に立ちました。SPANとは実際の企業からリアルな課題を与えられ、それに対してコンサルティングを実施するという授業です。私は、シンガポールのあるホテルから人事業務、フロントデスク業務、清掃業務の改善提案を依頼されました。依頼をしてきた企業が協力的だったので、実際にホテルの現場を見学・分析する機会を多く与えられ、タイに出張にも行きました。理論によりがちなMBA生活の中で、現場に根差したプロジェクトを経験することができたので最も役に立った授業だったと言えます。

NTU_SPAN_内海
6名、5ヶ国のクラスメートで構成されたSPANのチーム

週3、4回の頻度でトレーニングクラブの活動(クラスメートとの思い出)

NTUの特徴である「クラスメートのほとんどが寮生活」という点と、ウェイトトレーニングの知識を活かしトレーニングクラブを設立しました。早朝か夜に、週3、4回のトレーニングセッションを開き、クラスメートと一緒にトレーニングをしたり教えたりしていました。フィジカルだけでなく、メンタルヘルスも重要だと考え、インド人のクラスメートと協力して週1回、ヨガのセッションも開いていました。これらのクラブ活動を通じ、クラスメートとのコミュニケーションが更に濃密になりました。グループワークが多いとはいえ全員とコミュニケーションを取るのは難しいです。しかし、このトレーニングクラブの活動に多くのクラスメートが参加してくれたので、私はほとんどのクラスメートとコミュニケーションが取れました。(クラスの約70%は1回以上参加してくれました!)またコミュニケーションの質の面でいえば、一緒に汗を流すことによって開放的にもなりますし、勉強中とは違った別の面も見えたりします。このように、NTUではビジネス以外の経験・特技を活かしてクラスに貢献したり、ネットワークを築いたりすることも可能です。

自信を得ることができたエピソード

具体的なエピソードではないのですが、グループワークが中心となるナンヤンMBAの中で、ほとんどのグループワークのリーダーを務めたことは「どんな環境でも引っ張っていける」という自信になりました。多様な国籍・バックグラウンドで構成されるグループなので話をまとめるのは大変でしたし様々な衝突もありましたが、常に入念な準備(下調べ、ゴールへの道筋を立てる、テンプレを作成する)をすることで何とかリーダーを務められました。

特に鮮明に覚えているのは3rd Trimesterに参加した香港科技大学(HKUST)でのケースコンペティションでの経験です。授業では教授がグループを作ることが多いのですが、ケースコンペティションについては自分達でグループを作ります。そのグループで予選を突破し、NTUを代表して香港のHKUSTでのケースコンペティションに参加しました。丁度、NTUの3rd Trimesterに開催されたので、それまでの授業で学んできたことを総動員して、アジアだけでなく、アメリカ、ヨーロッパから参加したスクールの代表と競い合いました。MBAの総括として役に立ったのはもちろん、他のスクールの方々の素晴らしいプレゼンを見たりネットワーキングをしたり、刺激的なMBAの総まとめとなりました。

HKUSTでのケースコンペティションのチーム

ここが我が校の自慢!(他の学校との一番の差別化)

1. アジア就職時に役立つソフトスキルを徹底的に鍛えられる

一つ目は、ソフトスキルにフォーカスしたプログラムであることです。まず、LPG(Leading People Globally)という授業で、Leadership、Negotiation、Talent Management、Cultural Intelligenceの四つの分野の理論を学びつつ、それをグループワークの中で試していくことができます。前述の通り、NTUでは嫌というほどグループワークがあるので実践の場は山ほどあります。また、クラスメートが多様なので、これを通じて「グローバルな環境で働くとはどういうことか」ということを身をもって学ぶことができます。私はアカデミックな内容よりも、NTUで鍛えたソフトスキル(主にプロジェクトマネジメント力)がシンガポールでの就職後に一番役に立っている点だと思います。

2.「不便な立地」がクラスメートとの絆を強くする

あと見落としがちですが、とても重要なのが立地です。正直、他のシンガポールの学校と比較すると不便な立地ですが、私は「不便な立地」であることが決め手でNTUを選択しました。というのも、不便だからこそクラスメートのほとんどが寮生活を選択します。つまり、授業だけでなく、生活の大部分をクラスメートと過ごすことになります。それにより、MBA中は数多くのクラブ活動や飲み会により普通に授業を受けるだけでは築けない絆が生まれたと思っております。例えばですが、私は前述の通り、トレーニングクラブを設立し、週3、4回のペースでトレーニングセッションを開催しておりました。寮の下にジムがあったので、この環境もあって毎回平均5人程度のクラスメートが参加してくれました。(多い時には15人!)これもあって、今でもどこかの国に行ったらその国にいるクラスメートに会いますし、シンガポールに残っている人たちとも定期的に会っています。もちろん便利な立地でネットワーキングも良いとは思いますが、それは卒業後でも可能なので、MBA中はクラスメートと濃密な時間を過ごしたいという方にはNTUがおすすめです。(シンガポールは小さいのでNTUからでも30~40分程度で中心に来ることができます。)

NTU_club activity
寮の下のジムでのトレーニングクラブ活動

日本文化を堪能してもらったBusiness Study Mission

NTUではBusiness Study Mission(通称BSM)というStudy Tripがあり、我々の代は東京か上海を選択できました。私は東京を選択し、毎晩、他の日本人生徒と一緒にSpecial Eventと称してイベントを開催しました。日本食を食べ歩いたのはもちろん、他のビジネススクールとのネットワーキングパーティーを開いたり、カラオケに行ったり、温泉に行ったりと、たっぷりと日本文化を味わってもらいました。また、もちろんStudy Tripなので、毎日、日本の有名企業に訪問し、各企業のグローバル展開等について学ぶ良い機会にもなりました。

NTU_Business Study Mission
東京でのBusiness Study Missionにて

シンガポールでの生活

シンガポールは香港と比べてもかなり英語の通用度が高いので言語で困ることはないです。気候は常に30度以上、12月や1月に雨が続くことがありシンガポールの方は冬だ、と言いますが、低くても25度ぐらいですシンガポールは中華系、マレー系、インド系の方が多いので、どこに行っても中華料理、マレー料理、インド料理は食べられます。街に出ると日本料理のレストランが多いので、本格的な日本料理も食べることができます。

絶対にシンガポールで働くと決めていた就職活動

絶対にシンガポールで働く、という気持ちでシンガポールでのMBAに来たので(冬服もほとんど捨ててきました)、最初からシンガポールでの仕事しか見ていませんでした。3rd Trimesterが始まりSPAN(コンサルティングプロジェクト)が終わった3月頃から開始しました。業界はIT、業種はITコンサルタントかプロジェクトマネージャーで絞りました。シンガポールでのエージェント経由で約3社、LinkedIn経由(シンガポールはLinkedInの使用が多いです。)で1社アプライし、中国系コンサルティング会社とRakuten Asiaからオファーを頂き、4月中旬頃、Rakuten Asiaに決めました。

そこからRakuten AsiaでSenior Product / Project Managerとして1年半働いた後、転職をして現職(アメリカのIT企業)に至っています。現職についてもLinkedInで連絡をもらったことをきっかけに転職を決めました。元々、シンガポールにアジア拠点を置く企業で働きたいという思いがあったので、MBAに来る前から思い描いていた仕事に就けました。また、現在の会社は丁度アジア進出を決めたタイミングということもあり、アジアMBAで学んだ知識、スキルを活かしてアジア展開をサポートしていく刺激的なポジションだと思います。

シンガポールで就職、そして、転職をした感想としては、シンガポールでは専門的なスキルがないと外国人は望むようなポジションで仕事を得るのは難しいと感じました。(もちろん日本人であれば日系企業の現地採用というのは可能なのですが、それがMBA卒業後、思い描いているものである可能性は高くなさそうです。)また、海外MBAに行くとわかるのですが、日本人の英語力は他の国籍と比べると圧倒的に低く、こちらの採用担当の方々もその辺は知っているので、まず英語力については良い意味で裏切るぐらいでないと難しいというのも実感しました。ただし、そこを突破して「専門的スキル」「英語力」「日本語+日本文化理解」という三つが揃うと、シンガポールのジョブマーケットでも価値を発揮できるのかと感じました。

NTUに行ったメリット・デメリット、当初の目的は果たせたか

メリットとしては、濃縮された一年間で、多様性のあるクラスメートの中で英語を使って実践経験を存分に得られるということです。私は、元々のIT業界での経験に加え、MBAのグループワークでリーダーを務めて培った英語でのプロジェクトマネジメント力を活かして当初の目的であった「それなりのポジションで、シンガポールにアジア拠点を置く多国籍企業で働く」という目的を果たせました。

デメリットとしては、正直MBAを持っているからといって就職には直結しない点です。特にシンガポールでは外国人に対するビザの発給が年々厳しくなっており、シンガポールで有名なMBAを取得したとしても、即戦力になるようなスキルを持っていないと就職は難しいです。(実際に、比較的若いクラスメートは就職活動で苦労していました。)そのため、シンガポールで就職を希望する場合は、何か確固たるスキルを身に着けておくことが必要かと思います。ただ、そのような方であれば「本当にMBAが必要なのか」という点をもう一度検討する価値はあるかと思います。私は「どうしてもMBAに行きたい」という思いがあったので全く後悔はしていませんが、ものすごく現実的に、投資と割り切って考えるような方については、そこまで調べた上で決断された方が良いかもしれません。

未来のアジアMBA生への応援メッセージ

MBAが始まった直後、クラスメートと比較して圧倒的に英語力が低く、挫折しそうになりました。ただ、そこで、守りの姿勢にはならず「攻めのMBA生活」にしようと決めました。守りの姿勢でも単位は取れますし、卒業をしてMBAホルダーになることはできます。また、我々日本人は、他の国籍の生徒に比べると圧倒的に英語ができないという事実も受け止めざるを得ないと思います。しかし、守りに入った時点で得るものは半減、もしくはそれ以下になってしまうと強く感じました。死ぬほど予習・復習をして、クラスで発言し、グループワークや議論をリードする、それによって実りのある一年にしないと十分なリターンを得られないと感じました。これからMBAを取る方々には是非「攻めのMBA」を目指して頂きたいと思っています。

この文章を書いている時点でMBAを卒業してから二年経っていますが、やはり良い経験だったと実感しながらこの文章を一気に書き上げました。NTUでのMBAは一年と短いですが濃密な時間だったこともあり、正直まだまだ色々と書きたいことがあります。投資対効果だけではない、かけがいのない経験を是非味わっていただきたいと思います。最後になりますが、MBAの中で世界中20ヶ国から来た生徒の中で、日本人代表として議論を交わし、リードする、そんな自分をイメージしながら頑張って頂きたいと思います!

<参考>留学費用

※在学当時の留学費用概算、為替は2020年1月現在のものを使用

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