プロフィール
荒木駿一 (Araki Shunichi)
東京工業大学工学部卒業後、国内独立系コンサルティングファームに入社。2019年にNUS MSBAに私費留学。卒業後、日本に帰国しボストン コンサルティング グループに勤務。
留学前
MSBAを目指すことになったきっかけ
なんとなく持っていた“海外留学したい”と、“アナリティクスを学んでみたい”の解がMSBAでした。
私は新卒で国内独立系のコンサルティングファームに入社し、クライアント企業の新規事業立案支援や、事業実行支援などを中心に経験してきました。その中で、あるプロジェクトでアナリティクスに大きな可能性を感じるようになり、アナリティクスを通じて企業の意思決定に資する深い示唆を提供できるような人材になりたいと考えるようになりました。
また、学部在学中から、いつかはMBA留学に行きたい・英語力を向上させたい、という思いはずっと持ち続けており、社会人4-5年目で上記のプロジェクトを経験した後に、偶然SNS上でMSBAの記事を見つけました。MSBAとは、ビジネス的な観点でアナリティクスを体系的に学ぶことが出来る、欧米で盛り上がり始めているプログラムだと紹介されており、それを見つけたときには、私が元々持っていた留学したい・アナリティクスを学びたいという想いの両方を叶えてくれるものだと、とても興奮したのを覚えております。当時、まだMSBAが出始めで情報もほとんど出回っていない中で、たまたま記事を見つけたのはとてもラッキーでした。
NUSに入学するまで
この偶然の発見をきっかけに、MSBAを目指すことにしました。欧州かアジアの英語圏の大学が良い、どうせ行くなら知名度がある大学に行きたい、ということでインペリアル・カレッジとNUSの2校を志望することにしました。当時はMSBAに関するまとまった情報もあまりなく(今もそうかもしれませんが)、どこの大学がMSBAや似た様なプログラムをやっているかを探すだけでも大変だった記憶です
両志望校ともにTOEFL/IELTSと、GMAT/GREのスコアが必要とのことで、準備しました。NUSは、TOEFL/GMAT共に明確なスコア基準があるわけではありませんでしたが、GMATではMathのスコアは参考にするとの情報がありました。MSBAを志望するのであれば、Mathは、最低でも50、できれば満点の51を狙ったほうが良いと思います。Mathは、対策はしたものの、中学生レベルの数学で非常に簡単だったので、どちらかというとトータルスコアの見栄えを気にして、多くの日本人が苦戦するVerbalを、予備校に通うなどして対策しました。
その他では、出願に必要なエッセイや推薦状などを準備し出願しました。エッセイでは、過去にアナリティクスを活用してどの様な課題を解決し、どこに限界を感じたか、そしてMSBAのプログラムを通じて何を学び、将来的にどうブレイクスルーをし、どんな人材になりたいか、という一連のストーリーで訴求をしました。推薦状は、当時の上司や学部時の研究室での指導教授に依頼し、エッセイで書いた内容や過去の経験をサポートしてもらう内容をまとめました。
NUSからオファーを頂けたので進学することにしました。MSBAを目指す決意をしてからオファーをもらうまでは、2年ほどかかり、1年半弱はTOEFL/GMATの勉強に費やしました。
留学中
MSBAの概要
NUSのMSBAはBusiness SchoolとComputing Schoolが共同で運営しており、文字通りビジネスでの活用を見据えたアナリティクスが学べるプログラムです。学生は、男女比はほぼ半々で、東南アジアや中国・インドからの留学生がメインで、一部欧米出身者もいる、というような構成でした。私の代は、日本人は私一人だけでした。
クラスメイトのバックグラウンドは、多種多様です。学部からそのまま上がってくる人から、数年の関連するキャリアを持っている人まで幅広いです。年齢的には20代後半が最も多く、次いで20代前半~中盤と30代前半です。中には30代後半~40代の方もいました。キャリア経験のある方の出身業界もバラバラで、金融、ヘルスケア、テック、製造業、コンサルティングなど多様でした。私が最も驚いたのは、看護師のキャリアを10年近く持ち、医療領域でのデータ活用に興味を持った方でした。
多くの日本の大学の修士課程の様に、2年間かけて研究を行い、修士論文を執筆して終了するのはリサーチ修士(博士前期課程)と呼ばれています。一方で、MSBAはコースワーク修士と呼ばれ、MBAと同様に講義を受けて知識習得と実践経験を得ることが中心のプログラムです。また、MBAの様な、ディスカッション中心の授業や、クラスでの積極的な発言が求められる、というようなプレッシャーは少なく(もちろん積極的な発言は評価にプラスにはなります)、クラスでのパーティーのようなものもあまりないです。
MSBAの対象者
プログラムの対象者としては、プログラミングがほぼ未経験な人から、興味があって独学で勉強をしている人や、少しだけ実務でアナリティクスの経験がある人、等様々です。これらの方が、体系立てて幅広く学ぶには非常に良いプログラムだと思います。既に豊富な実務経験を持っていらっしゃる方や、関連する学位を既に持たれている方だと、やや物足りない印象を受けると思います。
プログラミングや、微分積分や線形代数といった基礎的な数学力は、必須ではなく入学前に補講などもあります。しかし、基本的には出来る前提でカリキュラムは進みます。理解を早く・深くするためにも、全くわからない状態で入学されることは、バイリンガルの方を除き英語で苦戦することが予想される中、あまりおすすめしません。
カリキュラムの概要
フルタイムの場合は、約15ヶ月で修了となります。①基礎的な内容を幅広く学ぶ前期と、②複数の専門分野から興味がある内容を選択する後期、③学んだことをインターンで実践し最後は成果をレポートで発表するCapstone Projectの3期間の構成です(カリキュラムの公式情報はこちら)。以下は、私が履修した際の内容なので、現在は変わっているかもしれません。
①基礎的な内容を幅広く学ぶ前期
計量経済や因果推論を学ぶ、Analytics in Managerial Economics、統計や機械学習のFoundation of Business Analytics、データ関連のData Management and Warehousing、最適化のOperations Research、といった構成でした。また、毎週提携している企業の方が来校して、実際の企業活動の中でどの様にデータやアナリティクスが活用されているかを紹介してくれるセミナーがあり、リアルかつ最新の事例を聞くことができる時間もあります。
②複数の専門分野から興味がある内容を選択する後期
Statistical ModelingやBig Data Analytics、Financial Analyticsなど、いくつかのカテゴリーの中から自分の興味のある授業を選ぶことができます。数学必須の統計や機械学習の理論を深く学ぶ授業から、様々なデータセットを使い示唆を出してプレゼンする実践的な授業まで、幅広い選択肢があります。
私が選択した授業を2つご紹介します。
・Introduction to Network Science & Analytics
ネットワーク理論に関する授業です。基本的な理論やデータセットの取り扱い方から入り、最後はグループワークで自分たちで探してきたデータセットを活用し内容を発表するという流れでした。SNSや口コミで情報がどの様に伝播し、人々の行動にどんな影響を与えうるのか、に関して非常に興味があったので選択しました。SNSのデータセットはあまり公開はされておらず自分で分析することは出来ませんでしたが、いくつか論文が発表されていたのと授業内で取り扱いもあったので、それらを通じて自分の興味関心にアプローチしました。グループワークでは、公開されていた自転車レンタルサービスのデータをネットワーク理論で分析し、組まれていたネットワークの脆弱性を指摘する内容をまとめました。
・Applied Machine Learning
機械学習の理論~応用まで幅広く取り扱う授業です。元ヘッジファンドのクオンツの方が講義をしており、非常に実践的で面白い内容でした。講義の課題が、Kaggleでその期間に実際に行われているCompetitionへの投稿で、投稿したスコアの順に成績がついたりもしました。また、講義の最後のグループワークでは、ファッションECサイトの画像データを使って、公開されている様々な画像認識アルゴリズムの精度や違い、特徴をまとめる内容を発表しました。教授から非常に面白い内容だと言われたので、教授のサポートを受けながらレポートをブラッシュアップして、最終的には共著の論文として投稿もしました。
③インターンで実践し最後は成果をレポートで発表するCapstone Project
MSBAと提携している企業が多くあり、その中で自分が興味ある先に応募して面接を受けて、オファーをもらうという仕組みでした。シンガポール現地の企業や政府系企業、グローバル企業からスタートアップまで、業種はIT/テック系、製造業、金融保険業からサービス業など、幅広い企業があります。後期の途中からインターンへの応募が始まります。インターンからそのままフルタイムオファーがもらえる可能性もあるので、人気のあるテック系企業などは応募が集中しますし、当然のことながらインターンの枠にも限りがあるので優秀な学生から順に採用されていきます。しかも、1社に応募している間は他社へのアプライが出来ないという仕組みだったので、クライスメイト内での駆け引きになっていました。ちなみに、自力でインターン先を探してくることも可能です。
私は、コンサルティング業界でのアナリティクス領域でのサービス提供がどの様な感じなのかに興味があったので、現地の大手コンサルティングファームに応募してオファーをもらいました。
インターン先で数ヶ月経験し、その内容を最後はレポートにまとめて発表します。本来は、マリーナベイサンズの大きな会場を借りて、カンファレンスのようにポスター形式で発表するはずだったのですが、私のときはコロナの影響で、オンラインでプレゼンをする形式となってしまいました。守秘義務があるので詳しい内容は書けませんが、インターン先から了解を得られている場合は内容を詳しく書き、レポートをそのまま論文として投稿する人もいました。
卒業後
元々自分が持っていた経験と、学んだことを組み合わせて、これまでのキャリアから周辺領域へジャンプをされる方が多かったです。完全なキャリアチェンジを成し遂げる人は、居なくはないですが少ない印象です。最初に申し上げたように、MSBAでは入門的に幅広く学ぶことはできますが、プログラムを経て第一線ですぐに活躍できるほどのスキルや経験は当然身につきませんので、これを機に大幅なキャリアチェンジをするのは難しいです。
私は、元々キャリアを積んでいたコンサルティング業界での経験に、新たに学んだアナリティクスの要素をかけあわせて、より付加価値の出せることをしたいと思い、再び国内のコンサルティング業界を中心に就職活動をしました。Global top firmかつ国内No.1の戦略コンサルティングファームで、デジタル領域で強みがあるボストン コンサルティング グループ(BCG)からオファーを頂き、入社することにしました。
BCGに入ってからは、データサイエンティストと一緒にクライアントのDX戦略の立案~推進まで行うプロジェクトなど、様々なプロジェクトを経験しています。アナリティクスを含むデジタル系のプロジェクトではビジネスチームとデジタルチームがいるので、その間に入り橋渡し役としてコーディネートをする役回りを期待され担っています。